肝臓に感謝を!−薬やアルコールと、けなげな努力をする肝臓の話−

 殆どすべての薬は肝臓で代謝させ、蓄積されるか、排泄されるかの運命をたどる。その中にはアルコール、ビタミン剤、インスタント食品の安定化剤、防腐剤なども含まれる。


 ひとが肝臓のありがたさを感じるのは悪酔いや二日酔いで、地獄のような苦しみに見舞われたときだろう。

 すなわち頭痛、吐き気、むかつき、だるさ、自己嫌悪感などで「もう飲まないぞ」と反省会をしていても肝臓がアルコール分を解毒分解しない限り一生続くのだ。永遠にこの症状が持続するように感じられる長い一日に終止符を打てるのは肝臓が頑張ったからにほかならない。
 どうしようもないご主人様のために肝臓が懸命に働き、苦しみの原因のアルコールやアルデヒドを分解無毒化したため、翌日にはまた、飲みたくなるのである。
 薬や食物でアレルギー反応が起こり、蕁麻疹や痒みが出現しても、原因物質を肝臓が解毒分解することで、数時間〜数日以内に消失し、回復するのである。もし肝臓が働かねば、一生ポリポリ全身を掻かねばならない。


 
 数年前、中国製痩せ薬「センノモトコウノウ」による急性肝炎が800人以上発生した。十数人が劇症肝炎へ進展し、4人が死亡した。
シンガポールでは22人が急性肝炎になり、一人が死亡。有名女優も劇症肝炎になり、死の直前に婚約者からの生体肝移植で救命された。


 この「センノモトコウノウ」には記載された生薬の他に乾燥甲状腺末と食欲を落とす、日米では使用が禁止されているフェンフルラミンが厚労省により検出された。亡くなられた方はフェンフルラミンによる肝毒性が原因の劇症肝炎と推定された。
 フェンフルラミンは心臓弁膜症や肺高血圧症という重篤な副作用を発症させる危険な侵入者であると肝臓が認識したのであった。心臓と肺臓を守るため、肝臓は獅子奮迅の活躍をしたが、自らも犠牲になり劇症肝炎になってしまったのだった。


 腎毒性のある薬の肝での解毒や分解が不十分だと、今度は「肝腎症候群」と呼ばれる腎臓障害が発生し、最悪腎不全になってしまう。



 このように、肝臓はご主人様を様々な苦痛から救うため、またほかの臓器を守るため、日々活躍しているのだ。神経や筋肉のように、歩いたり、走ったり、車の運転などの派手な活躍はみせない。しかし、食事で胃腸に入った物質を、有害物質と有益な物質に即座に分別し、分解解毒と製造、備蓄を24時間不眠不休でおこなっている。


 たとえば、便秘などで発生したアンモニアや芳香族アミノ酸の分解が不十分だと、錯乱、昏睡、異常行動、ひきつけなどが起こる。食物の蛋白質、脂肪、体内のホルモンをうまく分解や合成が出来なくなると、むくみや腹水、無月経や紫斑病などが出現する。顔もどす黒くなるし、男性ではインポテンツにもなってしまう。
 我々がそうならないのは今日も肝臓が涙ぐましい努力をしているからなのだ。
だから一日に1回は右上腹部にある肝臓をさすって「ありがとう。お疲れ様。」と言おう。

  宜保 行雄
 松本市 宜保内科 消化器・肝臓内科クリニック