放射線と甲状腺のお話

 東日本大震災の原発事故による放射能汚染のニュースが連日の様に報道されています。とりわけ放射性ヨード(ヨウ素)については甲状腺がん発症のリスクとの兼ね合いで論じられているため、不安感を抱かれた方も多いと思います。今回は放射線と甲状腺の関係について、お話したいと思います。

  

 今から半世紀以上前の一時期に日本でも放射線が水虫やにきび、あざ、扁桃腺やリンパ節の腫れなどの良性の病気の治療に使われていたことがあります。エックス線を体の外から照射すると、にきびがすぐに治ったり、扁桃腺やリンパ節も小さくなりました。当時は放射線の危険性についての認識はほとんどなく、逆にすぐれた効果が得られることから放射線治療が最良の方法であると考えられていたのです。ところが、それから数十年が経った頃、医師たちが今まで経験したことのない異変に気づきました。それは首のまわりに放射線治療を受けたことがある人の甲状腺に腫瘍が多く見つかるということでした。時をほぼ同じくして広島や長崎で原爆による被爆や死の灰を浴びた人々の中に年月を経て甲状腺に腫瘍ができてくることがつきとめられ、治療で使われた放射線の照射によって甲状腺の腫瘍が増えることが明らかになったのです

   

 首の周辺の病気に対して放射線治療を受けた人から甲状腺がんが見つかる確率は、一般の集団検診で甲状腺がんが発見される確率に比べ約10倍高いことがわかっています。ただし、若い時期に放射線の照射を受けている人ほど甲状腺がんにかかりやすい傾向があることから、育ち盛りの子供の甲状腺はエックス線に対して感受性が高いのではないかと考えられています。また、放射線の照射後に甲状腺機能低下症が起きることもあります。この場合、脳下垂体から甲状腺刺激ホルモンの分泌量が増加するため甲状腺がんが発症するという可能性もありますが、早めに甲状腺ホルモンを内服することで十分対応が可能です。  

 

 現在では良性の病気に放射線をかける治療は行われていませんが、悪性リンパ腫などでは首の辺りから上半身にかけて放射線を照射する治療が引き続き行われています。この場合、放射線の照射は病気を治すために代替のきかない有効な治療ですから、将来発症するかわからない甲状腺がんを恐れて治療を受けないことは本末転倒です。治療後に定期的な甲状腺の診察を受けることが大切です。

 

 さて、原発事故では放射能汚染という悪いイメージで報道されている放射性ヨードですが、バセドウ病や甲状腺がんの診断や治療にも厳格な管理のもとで使用されています。ただし発育中の小児では原則として放射性ヨードを用いた診断や治療は行ないません。これは前述のごとく放射線に対する甲状腺の感受性が高いことに加え、放射性ヨードは体内に取り込まれた後に甲状腺に高濃度に集積し、体の外からの照射に比べ非常に多くの放射線を出すためです。

 最後に、災害での被曝と医療のための被曝は分けて考える必要があることをご理解頂ければ幸いです。

 松本市 丸山クリニック
           院長 丸山正幸