口腔と全身の病気の関係

明治政府は1887(明治20)年から東京帝国大学医学部をはじめとして全国に帝国大学医学部を創設した。これは主に軍医を育てるためのものであり、歯科疾患は直接命にはかかわらないと言う理由で歯学部の併設は見送られてきました(以後歯科は私学によって発展を遂げることになるのですが)。今日でも一般の国民の間では歯科の治療は全身疾患に比べて後回しにされる傾向にあります。今回は歯科疾患が直接・間接に全身の病気にかかわり、放置すると全身疾患をさらに増悪させる主な病気について話します。

 一般的には自分の病気の原因(の一部分または大部分)が口の中から生じているとは思わない方が多いと思います。しかし、口の中の病気が全身に影響を及ぼしていることが意外に多く、また日頃から口の中の手入れが行き届いていないために歯の病気が進行し、その結果全身の病気が悪化することがよく見られます。病名を挙げてみます。@糖尿病A誤嚥性肺炎B動脈硬化と心筋梗塞・脳梗塞C早産・低体重児出産D骨粗しょう症E胃潰瘍F細菌性心内膜炎G頚部蜂窩織炎Hシャーグレン症候群I掌せき膿疱症J扁平苔癬K尋常性天疱瘡L認知症Mバージャー病など。

 口の中とそれぞれの病気の関係を説明します。@糖尿病には生活習慣には関係なく若年者にも起こるT型と生活習慣すなわち運動習慣や食生活に関係するU型があります。わが国では糖尿病が強く疑われる人(HbA1c:ヘモグロビンエーワンシー6.1%以上)は830万人、糖尿病の可能性を否定できない人は1,490万人で合わせると2,320万人となり、成人の4人に1人が糖尿病かその予備軍ということになります。
 歯周病は糖尿病の第6番目の合併症といわれ、喫煙により両者ともに悪化します。2,320万人のうちの30%近くの人が肥満(BMI26.4以上)(BMI=BodyMassIndex体重指数:体重÷身長÷身長=22を理想体重とする)となっています。

 一方、肥満人口は2,300万人に達し、そのうち約半数は糖尿病・高脂血症・高血圧症などの生活習慣病を併発しているといわれ、さらには歯周病との関連が言われています。T型糖尿病患者ではプラーク量の割りに歯肉炎の症状が顕著で短期間で歯槽骨の吸収が進行するので、早期の歯周病の診断と糖尿病の厳密なコントロールが必要になります。U型では血糖のコントロール(主にHbA1c)が悪いほど歯周病が進行し、また罹患期間が長いほど他の合併症とともに歯周病も悪化します。

 糖尿病は肥満を伴うことが多く、肥満そのものが歯肉炎の危険因子になるとも考えられています。不完全な歯みがきでは口の中に細菌が多く、インスリンに対する抵抗性が悪くなり、血糖値が高くなります。さらに、歯が動揺し始めると物が噛めなくなり、食事の量が減ったり食べるものが偏ると食事療法や薬物療法を正しく進められなくなったりします。歯周病を放置すると糖尿病そのものに悪影響を与え、血糖コントロールが悪いことでさらに歯周病が進行して行きます。たった1回の全顎のスケーリング、ルートプレーニング(歯石の除去と歯の根元の研磨)でHbA1cが改善することもあります。抗菌療法を併用した歯周病治療により、血糖コントロールがしやすくなります。歯科では可能な限り歯を残し、噛みあわせを改善することを目指しています。

鈴木 信光
 辰野町 鈴木歯科医院