腰痛

腰痛。それは人類が二足歩行を始めたときから、宿命となった症状でしょう。脊椎動物は、頭蓋骨の下に、頚椎7個、胸椎12個、腰椎5個、仙椎5個、尾椎3〜5個(仙椎、尾椎は1塊となっている)を持っており、4足歩行の動物はそれぞれの間に圧がかかることはほとんど無いのに対し、2足歩行の人間は、その椎体より上の体重を支えなければならない宿命にあるからといわれています。
 腰痛は産業化社会では一般的な症状であり、イギリスの研究では毎年人口の2%が腰痛の医療を求めており、一生の間に70%の男性が腰痛のエピソードがあることが示されています。さらに付け加える事実は、アメリカ合衆国では年間250万人の労働者が障害を受ける。毎年全ての従業員の2%に腰部障害がある。毎年100人の労働者が平均28.6日を浪費する(これによると毎年アメリカ合衆国では年間1700万労働日に上る)。イギリスでは腰部障害のために毎年25人に一人が仕事を変える(これらは1980年代頃の論文からの引用です。現在でも、増えることはあっても減ることは無いと考えられるでしょう)。
 職業性腰痛の原因の3分の1が作業中に起こり、重量物を挙上したり腰を捻ったりした事故の結果であり、別の3分の1もやはり作業中に起こるが滑ったり転倒した結果であり最後の3分の1が作業環境以外の自然に起こったものとされています。
腰痛が産業界に与える重大な影響は、腰部愁訴により6ヶ月以上仕事を休んでいる労働者が生産現場へ復帰できる確率はたった50%という事実です。

腰痛患者の診察にあたって
 さて、医師が腰痛の患者さんを診察するに当たり、その病歴を聴取後に診断を下せる確率は80%であり、診察することによりその確率は10%改善し、特殊で高価な検査を指示することによりさらに5%改善する。病歴や診察、検査を見直した後にまだ診断に自信が持てないならば、元に戻って病歴を聴きなおしなさい。正確な病歴を僅か数分で聞き出すことにより、高価な検査にかかる数千ドルを節約することができる。と教科書に書かれています。その教科書は、『良い獣医になることがどんなに難しい事かわかりますか?』と結ばれています。
 診察室での問診に使っているテンプレートには、ギックリ腰の既往がありますか?夜間痛みで目が覚めることがありますか?立ち座りの動作で痛みがありますか?長く歩いていて途中で立ち止まりたくなることがありますか?この痛みで日常生活が不自由ですか?それとも何とかやっていけますか?と、これくらいのお話を、お伺いするようにしてあります。これら全てを正確に聴き取ることができれば、素人でも患者さんがどのくらいの症状にあるかが見当つくでしょう。

腰痛治療の順序
 腰痛治療の順序は、安静(安静臥床、装具、体重減少、仕事の調節)、投薬(鎮痛剤、抗炎症剤、筋弛緩薬)、温度変化(温熱と冷熱)、運動(屈曲、伸展、等速度運動)、その他(針治療、経皮的電気刺激、リラクゼーション療法)、時間。とされています。そして、患者さんがこれらの保存療法を行ってきたならば、それらを再度行うよう指示することは無意味であるということです。いったん適当な保存療法が失敗したならば、手術を考えなければなりません。さらに膀胱直腸障害や進行性の神経障害の病変があれば直ちに手術を考えるべきであるということも忘れてはなりません。
 しかしながら保存療法の最後に掲げられた項目は時間です。症状や疾患が自然経過で軽快するだけの十分な時間が経過したか、自然経過が過ぎるまで、患者さんを手術室に急がせる必要はありません。
 患者さんを手術室に急がせる必要が無いことは前述の労働者の社会復帰の観点と矛盾しています。現在は保存療法と手術療法の間に、硬膜外ブロック、神経根ブロックという麻酔治療も有効であり、手術治療も微細侵襲手術が開発され、患者さんの負担(手術の範囲、入院日数や経済的問題)も軽減されています。大切なことは、手術しなくて良い患者さんを手術してはいけない。また手術が必要な患者さんをむやみに待たせてはいけないと言うことではないでしょうか? 

花岡 徹
(山辺温泉花岡整形外科医院)