心の病にどう対応するか

 毎年の自殺者の数が3万人を超え、作家の五木寛之氏の言葉を借りれば、広島の原爆が3年に1回は落ちているような死者の数といわれるほど、深刻な事態になっています。どうしてこのようなことになってしまったのか、さまざまな分析はあるようですが、やはりきわめてきびしい競争社会になってきたことが、理由の一つとしてあげられるのではないかと思います。こういう状況の中では、概して義務感・責任感の強い勤勉な方ほど、挫折をきたしやすいのです。今回は、職場における心の病への対応、とくに「うつ病」について述べてみたいと思います。

まず、心の変調というものは、外見的にすぐわかるようなものではありません。自殺者の生前の様子がまったく普通だったということは、しばしば聞かれることです。そしてこういう自殺者のほとんどが「うつ病」と思われます。やはり、日ごろからメンタルヘルスに関する知識を普及しておくことや、相談しやすい雰囲気を作っておくことが重要ではないかと思います。幸い、このところうつ病に関してわかりやすいパンフレット等が作られていますので、そういうものを利用する方法もあるでしょう。

 

■心の病をもつ人への対応の原則

 心の病をもつ人への対応の原則は、誠実さと率直さです。感じていることは率直に伝えて結構ですが、この場合、決めつけにならないよう配慮することは重要でしょう。事実は事実、意見は意見として伝えることが最も説得力に富み、誠実な態度であると思われます。
 たまにあることですが、医師が休養を勧める前に「1週間休んで完全に治してこい、ついてはその間の治療方針を医者に決めてもらえ」などとおっしゃる上司の方がいます。お気持ちはわかりますが、こういう対応は適切とはいえません。まず、この上司は口では治療方針を医者に決めてもらえといっておられますが、1週間の休養を勧めて医師よりも先に「治療方針」を決めておられるところが問題です。意図的であるかは別にして、療養上の責任はそれでも医師にとってもらおうということですから、医師としては大変やりにくいことになります(心の病で、1週間の休養で完全に治るものはありません)。それにこういう場合、上司と本人の人間関係の中に問題の本質があることが多いのです。

 

■うつ病の療養の基本は休養です。

うつ病の場合、療養の基本は休養です。最近は、すぐれたクスリが続々と登場してきています。病状によっては、ある程度の仕事をこなしながら服薬によって改善することも期待できます。なぜクスリが効くのかはわからない点がありますが、「うつ」では主に脳内物質のセロトニンの働きに微妙なズレがおこっており、これを修正するのがクスリであろうと考えられています。

 病状が改善し、職場復帰の時期を迎えます。この場合も、「完全に治してから復帰してこい」ではうまくいきません。病状はよくなったとしても、それは仕事のストレスがないときの話で、いざ仕事となればケタ違いに疲労するのがむしろ普通です。半日程度から出勤を開始し、2〜3週かけて徐々に勤務時間を増やしていく方法をお勧めします。「会社はリハビリ施設ではない」かもしれませんが、「会社復帰」のために最も効果的なリハビリができるところも会社なのです。まじめで勤勉な人材の能力を十分に引き出すためにも、ご理解いただければ幸いです。 

 加藤 信
(松本市 かとうメンタルクリニック)